静岡県熱海市のMOA美術館はJR熱海駅の…


 静岡県熱海市のMOA美術館はJR熱海駅の背後の山上にある。入り口から七つ続くエスカレーターを上り詰めて展示室に至るのだが、途中にある庭園からは相模灘を見下ろすことができて、抜群のロケーションだ。

 展示室に入る大きなドアは黒と朱の漆塗りで桃山時代の意匠。昨年リニューアルオープンしたが、この仕事に携わった美術家・杉本博司さんのデザインだそうだ。今、リニューアル記念特別展が開催中。

 二つの展示がある。一つは杉本さんの写真展であり、もう一つは織田信長の茶道具と桃山文化。二つの展示に共通するテーマは、ローマ法王に派遣された天正遣欧少年使節だ。

 信長はイエズス会宣教師たちに親しく面会し、布教許可の朱印状を与えて優遇した。そのような背景から天正10(1582)年に少年使節が派遣されたが、8年5カ月後に帰国した時には豊臣秀吉による伴天連追放令が発せられていた。

 それでも少年たちは謁見(えっけん)が許され、秀吉は彼らの西洋楽器の演奏を聴き、3度も繰り返させたという。少年使節の最大の功績は洋式印刷機と印刷技術の請来。迫害で数奇な運命をたどるが、数十種類の冊子が印刷された。

 その一つ『サカラメンタ提要』が展示され、開いたページには楽譜が掲載されていた。グレゴリオ聖歌だそうで、隠れキリシタンのオラショの元になった歌。冊子は日本史上最初の印刷物で、桃山時代の東西文化交流の深さを考えさせる。11月4日まで。