ノーベル文学賞への強い執念を物語る「辞退」…


 ノーベル文学賞への強い執念を物語る「辞退」だ。作家の村上春樹氏が、関係者の不祥事によって今年は発表が見送られたノーベル賞の代わりに、今年限りで設けられた文学賞の最終候補を辞退した。

 賞を主催するNPO団体「ニューアカデミー」に対し、村上氏はメディアの注目を避けて執筆活動に専念したいと表明した。同団体は「残念だが、彼の決定を尊重する」としている。村上氏が望むのはあくまでもノーベル賞であって、それに代わる賞が欲しいわけではない。

 クールで本心を明かすことを嫌う村上氏は、これまでもさまざまな機会にノーベル賞受賞への希望だけは明らかにしてきた。今回の辞退は、村上氏の願望を最も強く表明する結果となったと言えよう。

 文壇でよく聞く賞にまつわる話がある。有名なA賞とそうでもないB賞の日程が重なった場合、少しばかり早いB賞の打診を受けたある作家(故人)はこれを蹴った。彼はその後、A賞を受賞した。B賞の打診があった段階で、A賞の関係者に相談した上でB賞を断ったとの話もあった。

 今回の賞をもらえば、ノーベル賞の選考機関が「村上氏はあの賞をもらったのだから、今さらノーベル賞を与える必要はない」と考えることもあり得る。村上氏はそこを警戒したのだろう。

 本人にとっても難しかったであろう今回の決断が、来年以降のノーベル賞を受賞するための戦略の上で「吉」と出るのかどうか、興味が尽きない。