群馬県の西南端にある上野村は県内で最も…


 群馬県の西南端にある上野村は県内で最も人口の少ない自治体。「四季のうつろいが鮮やかな山々の豊かな自然とともに、平成の名水百選に選ばれた神流川源流が村の中心を流れ、貴重な動植物を育む環境を残した、すばらしい山村です」と黒澤八郎村長が紹介する。

 この辺鄙(へんぴ)な山村の「森のギャラリー」で4月24日から約3週間、「東南アジアの仏教美術と陶磁器展」が開かれた。展示されたのはタイ、カンボジア、ラオスの仏像と南海の陶磁器「宋胡録」など。

 すべて歴史家、金子民雄さんのコレクションだ。展示の意図は33年前に御巣鷹山で亡くなった日航機墜落事故の犠牲者の追悼で、追悼会には「村人が大勢参加してくれた」と金子さんは言う。

 江戸時代に上野村の一部は天領で、タカの保護区が指定され、将軍に「鷹狩り」の巣鷹を献上。黒澤家は代々御巣鷹山の管理に当たり、18世紀中ごろに建てられた旧黒澤家住宅は国の重要文化財になっている。

 日航機事故当時、迅速で適切な対応で知られるようになった村長の黒澤丈夫さんは、太平洋戦争中は零戦隊の指揮官で、操縦士として出色の戦果を挙げた。昭和40年から平成17年まで村長を40年間務めた。

 黒澤さんが少年時代を過ごした上野村は「日本のチベット」と呼ばれた僻地(へきち)。だが、同じ場所を金子さんは「シャングリラ」と呼ぶ。山の奥地の、外界から隔絶された理想郷という意味だ。山岳史家としての新たな認識である。