「私みたいな何の権力もない個人」と人気…


 「私みたいな何の権力もない個人」と人気女性作家が書いていた。だが「何の権力もない個人」なぞいない。赤ちゃんでも泣くことで権力を行使する。特に人気の高い作家である以上「作品を書いてほしい」と思っている編集者はたくさんいる。彼らにとって、この女性作家は権力者そのものだ。

 こうした事情は分かっているのに「権力がない」と言いたがる。「自分には絶大な権力がある」などと強調する必要はない。しかし「権力がない」と事実に反することまで述べることもない。

 「強がり」という語は辞書に載っているが、「弱がり」はない。だが、弱さを自慢する「弱がり」の風潮は確かにある。「上から目線」は非難の対象になるから「下から目線」で物を言った方が得だという心理が働いているのだろう。

 誰でも自分を守る権利はある。権利は権力の一種だ。一般国民も選挙権を持っているのだから、時には首相の任免に関与することもできる。

 女性作家には「権力がない」と言っておけば無難という前提があるのだろう。あいさつ言葉みたいなもので、目くじらを立てるほどのものではないとも思っている。

 このような立場からすれば、「権力がない」という言葉の細部をことさら強調し、あれこれと論難するのは大人げない話だということにもなるのだろう。しかし、物を書いて生活している人間の、虚偽にも等しい言葉の使い方について青臭く非難するのも時には必要だ。