通勤途中、生け垣に卯の花の咲いているのを…


 通勤途中、生け垣に卯の花の咲いているのを見つけた。<卯の花の匂う垣根に、時鳥(ほととぎす)早も来なきて>で始まる「夏は来ぬ」の歌詞が浮かんできた。

 佐佐木信綱作詞、小山作之助作曲で、明治29(1896)年に「新編教育唱歌集(第五集)」に発表された。コーラスなどで聞くたびに、初夏の爽やかな風物を実によく表した歌だと感動する。格調高い歌詞、自然に浮かんでくるメロディーで「日本の歌百選」に選ばれている。

 信綱は歌人で国文学の大家。歌詞は古語を用い五音か七音で構成されている。日本の文学的伝統が唱歌の中にしっかりと息づいている。

 2番は<さみだれのそそぐ山田に、早乙女が裳裾(もすそ)ぬらして、玉苗植うる夏は来ぬ>。もとは<賤(しず)の女(め)が裳裾ぬらして>だったが、昭和7年に改作された時に「早乙女」に変わった。「賤の女」は身分の低い女性を指す古語だが、そんな身分制度はなくなっているし、今で言う「上から目線」もよくないと思われたのだろう。

 早乙女は田植えをする若い女性のことで、語感からもこちらの方がよっぽどいい。しかし今や、早乙女も死語になりつつある。その初々しく美しいイメージだけでも歌や物語の世界で残してほしいものだ。

 女性の社会的地位の向上、それによる言葉の変化など、時代は大きく変わりつつある。しかし、日本人が伝統的に育んできた季節ごとの詩情は保っていきたい。唱歌を歌い継ぐ意味はそんなところにもあるだろう。