今年10月に予定されていたノーベル文学賞の…


 今年10月に予定されていたノーベル文学賞の受賞者発表が見送りとなった。理由は選考委員の夫のセクハラ問題と、その委員による夫への選考過程漏洩問題の2点。セクハラに加えて、委員当人による漏洩(ろうえい)が問題視され、彼女は辞任した。ノーベル文学賞の選考については、選考過程が50年間公開されないなど秘密の部分が多い。

 芥川賞の場合、雑誌に掲載される「選評」で選考過程の概要を知ることができる。それをまとめた『芥川賞全集』(文芸春秋刊)まで存在する。ノーベル文学賞の選考委員は終身制だが、その点だけは芥川賞と共通している。

 ノーベル文学賞には3点ほど特徴がある。①政治性・社会性が高い②純文学作品が評価されることが多く、ベストセラーは敬遠される③詩人の受賞が多い。

 しかし、①は変化することもある。川端康成(1968年)のケースでは「伝統」が重視されたが、大江健三郎氏(94年)の場合は「政治性」が評価された。

 毎年のように話題になる村上春樹氏は、三つの条件をいずれも満たしていないが、選考作業は継続されるようなので、来年は「2人受賞」の可能性がある。

 今回のスキャンダルを契機として、ベストセラー作家でもいいではないかとの流れになることもあり得る。ミュージシャンのボブ・ディラン氏(2016年)の例もあるからだ。それにしても、高い権威を誇るノーベル文学賞選考委員のスキャンダルは、思いもよらないことだった。