北杜夫の長編小説『楡家の人びと』は祖父…


 北杜夫の長編小説『楡家の人びと』は祖父斎藤紀一から父斎藤茂吉、さらに作者自身へと続く生家の変遷を綴(つづ)った傑作。これを読んだ三島由紀夫は「戦後書かれたもつとも重要な小説の一つ」と絶賛した。

 気流子も再読したいと思って古書店を調べ、見つけて入手したのが山形県上山市にある古書店から。送られてきた本には、同市にある斎藤茂吉記念館の冊子が同封されていた。記念館があるのは茂吉の生家の近くだ。

 館長の秋葉四郎さんは短歌雑誌「歩道」の編集人。佐藤佐太郎に師事し、茂吉の孫弟子に当たる。会う機会があって、話題が上山市の古書店に及ぶと「北や茂吉関係の本がたくさんあるんです」と語る。

 茂吉から北、その長女でエッセイストの斎藤由香さんまで、愛読してきて気付くのは、北文学の特色であるユーモアと抒情(じょじょう)性を斎藤家のみんなが持っていること。これは上山市の土地柄に関係するのではとも推察された。

 郷土で愛読者が多いのは茂吉の親族の子孫がいるからでもあろうが、そこに地元民の気質が表現されていたためもあろう。同記念館には茂吉の書画が多数あり、才能は美術面にも及んでいたらしい。

 同記念館は、今年開館50周年を迎え、現在、改修工事のために休館中。リニューアルオープンは4月27日だが、休館を利用し、その重要な所蔵品の多くを東京に運んできて、今、渋谷区立松濤美術館で展示している。茂吉ファンには必見である。3月18日まで。