「何事もなくて春たつあしたかな」(士朗)…


 「何事もなくて春たつあしたかな」(士朗)。きょうは立春で、暦の上では春ということになる。しかし、朝夕はかなり底冷えして肌寒い。

 東京では先週からの残雪が道路脇などに残り、なかなか解けない状態が続いたこともあって、歩行者にとっては滑りやすく危ない。雪によって通勤電車も影響を受けるなど、都会のシステムの脆弱(ぜいじゃく)さを改めて感じさせた。

 立春について、稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「節分の翌日が立春で、2月4日または5日にあたる。気温はまだ低いが、暦の上ではこの日から春になる。寒さの中での春立(はるた)つという感じは、自然に対して敏感な日本人特有のものであろう」とある。

 節分に合わせ、新聞の折り込みチラシやコンビニなどの店頭で「恵方巻き」の宣伝をしていた。恵方巻きの起源はそれほど昔ではないようだ。節分に恵方(吉方)を向いて無言で巻き寿司(ずし)を食べると縁起がいいということで広まった。

 今では、バレンタインデーのように定着しつつあるのかもしれない。縁起かつぎに、ある時間、ある条件で無言を貫く習俗を描いたものとして、作家の三島由紀夫の短編「橋づくし」が知られている。

 陰暦8月15日の満月の夜に無言で七つの橋を渡れば願いがかなうということで、4人の女性が挑戦する話だが、傑作として名高い。結末はあっというオチが用意されていて、ケレン味に満ちた三島らしい作品として忘れ難いものがある。