もう20年ほど前のことになるが、英国滞在中に…


 もう20年ほど前のことになるが、英国滞在中に雑誌か何かで見た広告で忘れられないものがある。それは、家の中の床に苦しそうに倒れた老女が、パワーポイント用のレーザーポインターのような機械を手に持ってスイッチを入れている写真である。1人暮らしの老人が心臓発作などを起こした時、駆けつけてもらう救急医療サービスの広告だった。

 今では日本でも珍しくなくなったが、英国では老人だけの世帯や1人暮らしの老人が多いのに驚いた。英国人というのは孤独に強い人々だ、個人主義文化の中で鍛えられているのだろうと勝手に想像していた。

 いい意味でも悪い意味でも、何かと仲間をつくりたがる日本人とは違うように見える。しかし誰であろうと、やはり孤独は辛(つら)い。英国のメイ首相は、老人などが抱える孤独の問題に取り組む「孤独担当相」を新たに任命し、孤独対策に乗り出すという。

 英国内では900万人以上が常に孤独を感じており、約20万人の老人が1カ月以上の間、友人や親類と話をしていない。こうした環境が健康に悪影響を与えているとの指摘も出ている。

 福祉先進国の英国がどんな孤独対策を立案するのか、注目する価値はあるだろう。ただ、親子別居の傾向の強い英国は、基本的に家族の在り方を再考するより、社会サービスやボランティアでの対応に力点が置かれるだろう。

 日本も同じような課題を抱えつつあるが、日本なりの対応策を模索する必要がある。