「酒を飲みながら演技論なんかやってる俳優に…


 「酒を飲みながら演技論なんかやってる俳優にロクなのはいない」と、芸能界の大御所が言う。「演技は理屈ではない」というのは分かるが、地位安泰の大御所だから言える話と受け止めることもできる。

 彼は演技論なしでやってきた結果、大御所になったのだろう。「何万人に1人」の才能に恵まれたが故の成功体験だ。

 彼ほどの才能のない芸能志望者の方が圧倒的に多いはずなのだが、芸能界という上下が厳しい世界の中で、大御所の意見を公然と批判する者はいない。だからこそ大御所と呼ばれるのだろう。

 無論、大御所の発言だからといって正しいかどうかは分からない。検証することも困難だ。「大御所がそう言うのだから、酒飲みながら演技論なんかやってる連中はダメなんだろう」と、半信半疑で受け止めるしかない。

 大御所連中の影響なのかどうか、近ごろは人気の出始めた若手俳優も同じようなことを言う。テレビのバラエティー番組でも、演技論を語る俳優は「面倒臭い奴(やつ)」として敬遠される。テレビだから酒を飲んでいるはずもないのだが、それでも演技論は排除される。

 「論はしょせん理屈だから、そんなものはどうでもいい。大事なのは人気だ」という流れだ。大御所の成功体験には一面の真実があるが、しょせんは彼の個人的なものだ。大家の成功体験とは違った次元で将来を模索している俳優志望者はたくさんいる。演技論は、やりたければ堂々とやればいい。