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東京都千代田区の国立劇場小劇場で年4回…


 東京都千代田区の国立劇場小劇場で年4回行われる文楽公演の今年最後のプログラム「ひらかな盛衰記」を聞いてきた。「源平盛衰記」を分かりやすくしたものだが、「実はこうだった」ふうの大胆な解釈を行っている。

 主人公は、木曾義仲の四天王の一人、樋口次郎兼光。「源平盛衰記」では、義仲討ち死に後、投降し処刑されたと記されている。ところが「ひらかな」では、大津の船宿の船頭になり、敵討ちの機会を狙っているという設定である。

 このような改変は、船宿の主人・銀平が実は壇ノ浦で討ち死にしたはずの平知盛という「義経千本桜」など、時代物の人形浄瑠璃ではお馴染(なじ)みだ。こういうデフォルメの狙いは、サプライズもあるが、何より武士道の忠義や親子の情愛を強調するためだろう。

 「ひらかな」に関して言えば、樋口の忠義が表看板だが、実際の聞かせどころは肉親の情である。「松右衛門内の段」で自分の孫が義仲の子と取り違えられ殺された船頭権四郎の悲嘆など、深く繊細な感情表現に圧倒された。

 庶民の心をつかんだのは、こういう表現であった。渡辺京二氏の名著『逝きし世の面影』には「私はこれほど自分の子どもに喜びを覚える人々を見たことがない」という感想を引いて、幕末に来日した外国人の多くが、子供を可愛(かわい)がる日本人の姿に感心していることが記されている。

 浄瑠璃の聞かせどころは、江戸庶民が何を大切に日々生きていたかを伝えている。