簡単な算数の計算から。100㍍を10秒で走ると…


 簡単な算数の計算から。100㍍を10秒で走ると平均秒速は10㍍である。100/100秒(1秒)で10㍍だから1/100秒(0・01秒)で10㌢進むことに。日本学生対校陸上の男子100㍍決勝。

 日本人初の10秒の壁を破る9秒98の日本新記録を樹立した桐生祥秀(よしひで)選手(21、東洋大)は、伊東浩司さんの日本記録10秒00(1998年アジア大会、バンコク)を0・02秒短縮した。実に19年ぶりの更新である。

 1秒の100分の1を刻む電子計時による瞬時の差は、数字の上で分かっても実感では捉えにくい。これを距離に換算すると少しは分かろう。伊東さんがゴールした時、桐生選手はその20㌢前を先行したことになる。

 現在の世界最速は先に引退したウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)が2009年にマークした9秒58。桐生選手との差0・40秒は、桐生選手がゴールした時、ボルト選手はその前4㍍の所にいる計算に。

 その差は大きい上に、世界で9秒台をマークしたのは大半が北中米やアフリカの黒人選手で120人以上に上る。その中に分け入っていくのは並大抵のことではないが、希望もある。

 日本の男子短距離界は、山県亮太(24)、サニブラウン・ハキーム(18)、多田修平(21)、飯塚翔太(25)、ケンブリッジ飛鳥(24)の各選手が桐生選手に続いて10秒の壁突破を期待できるほど層が厚いからだ。日本陸上界の長年の夢を現実にした快挙は、ゴールではなく未来へのスタートだ。