「大鯉の深くあぎとふを見たりけり尾を曲げて…


 「大鯉の深くあぎとふを見たりけり尾を曲げてゐるその広桶に」。「鯉売」と題した松村英一の歌で、昭和2年の作。桶(おけ)にコイを入れて街にやって来る情景は戦後、昭和30年代まで見られた。

 業者はその場でぶつ切りにしてくれ、家庭ではそれをみそ仕立ての鯉こくにした。脂っこく独特の風味があって美味(おい)しいが、小骨の多いのが難点。このコイ料理の観念が覆されたのは「あらい」であった。

 佐賀県小城市の知人が振る舞ってくれた。上品でさっぱりしていて、お祝いの席にも用いられる。この市は有明海に面していて海産物が豊富だが、それにも増して自慢の名物が清流で育てたコイの料理だ。

 市町村別で養殖コイの生産量日本一は福島県郡山市。昨年度の生産量は850㌧に上る。明治初期に猪苗代湖から水を引いた安積疎水が完成し、使用されなくなったため池を利用して養殖が盛んになった。

 東日本大震災では養殖池が被害を受け、原発事故の風評被害もあって生産量が落ち込んだ。だが同市は平成27年4月農林部園芸畜産振興課に「鯉係」を新設。県南鯉養殖漁協との協力で「鯉に恋する郡山」プロジェクトを立ち上げた。

 生産、商品開発、販売を一貫して行う「6次産業化」だ。コイ料理の試作、試食、講習会なども行われてきた。この夏は「鯉食キャンペーン」が進行中で、街の料理店28店を紹介。カルパッチョやユッケ、鯉茶漬けなどメニューは多彩で、コイ料理の革命とも言える。