「重さうに持ちにくさうに西瓜提げ」(藤松遊子)…


 「重さうに持ちにくさうに西瓜提げ」(藤松遊子)。季節外れの長雨が続いたと思ったら、一転して蒸し暑さが復活。まさに残暑といった日々である。

 そういえば、今夏はスイカをほとんど食べていない。かつて旬のものだった野菜や果物は、現在は栽培技術の発達によって一年中食べられる。だが、夏にかぶりつきたいと思うのはスイカである。

 大きな玉を買ってきて、家族でそろって切り分けて食べる。甘い汁気がたっぷりだ。さくさくと噛(か)み、種を吐(は)き出す。それが気流子にとってのスイカの思い出である。両親や兄弟と共に食べたスイカは家族団欒(だんらん)の象徴と言っていい。

 スイカは漢字で「西瓜」と書くように、海外から日本に到来した果物だ。その時期は諸説があって定かではないが、室町時代あたりと言われている。盛んに食べられるようになったのは江戸時代から。しかし、当時のスイカは現在のような甘さがあまりなかったという。明治以降に品種改良されてから、甘い味覚を与えるようになったのである。

 スイカは一玉が大きいので、1人や2人では食べ切れない。それで、独身者や小家族向けに最初から切り分けられたスイカが売られている。大家族で食べた方がおいしいのだが、都会生活者には難しいということだろう。

 何でも合理的に食材が小分けになっている時代だ。便利ではあっても、そこには家族の思い出とつながるものはないのが寂しい気がする。