今年は全国的に曇りや雨の日が多く、夏らしく…


 今年は全国的に曇りや雨の日が多く、夏らしくない夏である。東京では8月に入って15日間、雨の降らない日はなく、40年ぶりという。熱中症の危険を伴うようでは嫌だが、やはり夏は適度に暑い方がいい。

 季節のサイクルを体が覚えているからだろう。それはこの列島に住み着いたわれわれの先祖たちも経験してきたものだ。この経験は、さまざまな行事や生活の知恵としてわれわれに伝えられてきた。

 日本人ほど季節に敏感な民族はないと言われる。日本では四季がはっきりとしていて、しかも少しずつ変化していく。米作りを民族の主ななりわいとしてきたことも大きいだろう。季節の変化の中でどんな作業をするかが秋の収穫を左右した。

 文人、貴族は、こうした変化に情趣を見いだして和歌や俳句に詠んできた。大陸文化の影響が濃い万葉集は、雑歌、相聞、挽歌の三大部立である。これに対し、国風文化を代表する古今和歌集は、春、夏と四季の部から始まっている。

 古今集の季節感はその後、連歌や俳諧に受け継がれ、俳句の季語となる。このような文化的洗練を経ながら、日本人の繊細な季節感は育まれてきた。

 例えば雨を取り上げてみても、春雨や村雨など、季節や降り方によってさまざまな名前がある。しかし最近のゲリラ豪雨などは、その性格をよく表してはいるものの何の情緒もない。気候変動が日本文化の基礎にある季節感までも破壊しないか心配である。