「渥美清は下品で卑しい」と小林信彦著…


 「渥美清は下品で卑しい」と小林信彦著『おかしな男 渥美清』(2000年4月新潮社刊、その後ちくま文庫)には書かれている。それは彼の経歴から来るらしい。

 1996年のきょう、渥美が亡くなった。それから21年。死の直後、テレビの追悼番組では司会者が「渥美さんは人柄が寅さんと同じ」と発言した。

 「寅さんを少しでも批判してはいけない」空気が早くも始まったと小林氏は言う。この種の神格化への不信感からこの本は書かれた。「寅さん」とは別の渥美がここには描かれている。

 元付き人によれば、渥美は自分の後ろに人を歩かせない。人に襲われることを恐れていたからだろうと彼は言う。「玄関前に自分が立っただけで、相手は包んだ金を出す」と渥美本人が小林氏に語ったことがあった。こうしたエピソードは、渥美がよろしくない仕事に関わってきた過去があることを示していると著者は述べている。

 「普通の人間じゃない」という自覚が、渥美本人にもあったようだ。その彼が「寅さん」を演じて大成功を収めたことは、多くの日本人が知っている。

 半面、21世紀の今、俳優や芸能人の実像に迫るような番組も著作もほとんどなくなった。代わりに、スキャンダル探しと偶像化が進むばかり。ネガティブな面も含めて、キッチリと描き出すような仕事が消えていく。小林氏のこの本が刊行されてから20年にも満たない間に、何かがガラリと変わってしまったようだ。