「見えてゐる海まで散歩風薫る」(稲畑汀子)…


 「見えてゐる海まで散歩風薫る」(稲畑汀子)。蒸し暑い日には、窓を開けて爽やかな風を迎えたくなる季節である。どこからか風とともに草木の匂いが運ばれてくる。

 自然の少ない都会に住んでいるとはいえ、緑地や公園があるせいか、風の中に不思議なほど初夏の木々の緑が感じられるのである。家の前に飾られた植木鉢の花も、乾いた心には潤いを与えてくれる。

 俳句の季語「風薫る」は、このような時期にふさわしく美しい言葉である。もちろん、風は匂いを運んでくるだけなのだが、風自身に匂いや色彩があるように思われる季語である。この言葉は「薫風」と表現することもある。季節の織り成す妙が風に反映されているということだろう。

 爽やかな風の中で、スポーツを楽しめる時期でもある。自分で運動するだけでなく、プロ野球のナイターなどを観戦するのもいい。

 今ではさまざまなスポーツの試合をテレビで見ることができるが、かつてはラジオにかじり付いて実況中継を聴いたものだった。相撲にしても野球にしても、不思議なものでテレビよりもラジオの方が想像力をかき立てドラマチックに感じられた。

 昭和34(1959)年のきょうは、昭和天皇と香淳皇后を後楽園球場にお迎えし、巨人対阪神の「天覧試合」が行われた日である。4対4の同点で迎えた9回裏、巨人の長嶋茂雄選手が阪神の村山実投手からホームランを打ち、劇的なサヨナラ勝ちを収めた。