「小さき蠅我へ移りぬ瓜の花」(岩木躑躅)…


 「小さき蠅我へ移りぬ瓜の花」(岩木躑躅)。東京は梅雨入りしたが、それほど雨が降っていない。とはいえ、じめじめした印象は日増しに強くなっている。

 ハエや蚊が多くなるのもこの季節。先日、就寝時に耳元で蚊の飛ぶ音がぶんぶんと鳴り、眠れなくなった。あわてて去年使った電気式の蚊取り器を探したが、なかなか見つからない。仕方がないので、電灯を点(つ)けたまま、しばらく起きていた。

 ハエや蚊が気になるのは、それが病原体を運ぶ媒体でもあるからだろう。気流子の小学校時代の友人も、夏に蚊が原因の日本脳炎で亡くなっている。それがトラウマになっているのかもしれない。かつてタイのリゾート地に行った時も、バンガローのような部屋で蚊がうなっていた。

 この時は強力な現地産の蚊取り線香を焚(た)いたのだが、その煙で呼吸困難になるほどだった。にもかかわらず、なかなか蚊が落ちない。蚊を狙っているのか、天井にはヤモリが張り付き、時々奇怪な声で鳴いていた。

 ありのままの自然がいいということを、自然志向の都会人がよく口にする。だが、その中で実際に生活するとなると覚悟が要る。

 そうでないと、室生犀星の詩のように「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の方がいいということになりかねない。とはいえ、豊かな自然に触れることのない都市生活も味気ない。両者の調和した生活こそが理想的ということになるのだろうが、それもなかなか難しい。