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14世紀から15世紀にかけてのフランスや…


 14世紀から15世紀にかけてのフランスやネーデルランド地方の生活様式、精神様式について描いた名著がある。オランダの歴史学者ホイジンガの著した『中世の秋』だ。わが国でもよく読まれてきた。

 この著作をスペインの哲学者オルテガが絶賛した。「十五世紀に関しては今まで書かれたものの中で最上のもの」(『ガリレオをめぐって』)と。人々は中世的世界、超自然的な神の世界を信じていた。

 しかし生きた信仰によってではない。他方では現世や自分自身、社会的任務、自然界が人々の関心を惹(ひ)き始めていた。信念の体系を喪失しつつ他の体系に移行できずにいた時代だと、オルテガが解説する。

 今、東京都美術館で開かれている「バベルの塔」展は、15世紀から16世紀にかけてのネーデルランド地方の名作を紹介している。『中世の秋』に続くドラマを美術でたどることができる。

 中世的信仰の世界から、科学技術と現世に信頼を置く世界へと変貌する過程が作品の変遷に見て取ることができる。始まりは宗教画だが、画家の視点は風景へと移り、奇想の画家ヒエロニムス・ボスが登場。

 最後を締めくくるのはブリューゲルの「バベルの塔」だ。旧約聖書に登場するその塔は人間の傲慢(ごうまん)の象徴だが、ブリューゲルのそれは新時代を開く科学技術の力を謳歌(おうか)しているように感じられる。だが、それから500年。現代は15世紀と同様、羅針盤を喪失した船のような状態にある。