1年6場所の中でも大阪場所は<荒れる春場所>…


 1年6場所の中でも大阪場所は<荒れる春場所>として毎年、波乱に満ちた土俵が魅力であった。それが一昨日の千秋楽では、負傷した左胸と肩をテーピングで固めて強行出場した新横綱稀勢の里が、その圧倒的不利を不屈の闘魂ではね返し日本中を沸かせた。

 本割、優勝決定戦と勝ち、大関照ノ富士からもぎ取った奇跡の逆転優勝は「今後に語り継がれる」(八角理事長=元横綱北勝海)2番である。本割では相手の寄りに下がりながら回り込み、右から突き落とした。

 決定戦ではもろ差しを許して後退。後のない土俵際に追い込まれてから捨て身の右小手投げでの逆転だ。2番とも無心の境地で最後まで諦めない闘魂が、それしかない活路を開いたのだ。

 負傷した横綱の劇的優勝で思い出すのは、平成13年夏場所千秋楽の優勝決定戦での貴乃花。右ひざ負傷も構わず強行出場し、本割で敗れたが、決定戦で勝って見せた「鬼の形相」は今でも印象深い。

 無心の境地の稀勢の里は、取り組みを前に何を考えていたのか。千秋楽夜のNHKの番組で「体の上は負傷しても、まだ足は元気だから、元気な足で頑張るしかない」と答えている。2番ともその通りの展開となり、横綱は足で戦って勝ちを得、古傷の両ひざが万全でない大関は、足がついて行かずに敗れた。

 優勝した際に白鵬はよく「相撲の神様」を言ったが、稀勢の里は先場所も今場所も「何か見えない力を感じた」と答えている。