「杖ついて近所の花を見て歩く」(上林白草居)…


 「杖ついて近所の花を見て歩く」(上林白草居)。東京では21日、靖国神社の桜(ソメイヨシノ)の標本木に5輪の花が咲き、気象庁が開花宣言を出した。東京での開花が全国で最も早かったのは9年ぶり。1週間から10日ほどで満開になるという。

 開花宣言の数日後、小社の側にある桜の木を観察したところ、まだつぼみがかすかに膨らんだという程度。もちろん同じ都内でも、開花時期に多少のばらつきがあることは間違いないが、少しがっかりしたことも確かである。

 だが、徐々に温暖になり、開花へと向かっていることは感じられる。気が早いが、白い霧のように咲き誇る桜並木の情景を思い浮かべた。特に、気流子が居住している近くの神田川沿いは見応えがある。気もそぞろになってしまうのは毎年のこと。

 「一片の落花見送る静かな」(高浜虚子)。俳句を見ると、桜の開花よりも落花の風情を詠んだものが多いように思われる。

 特に、強い雨が降った翌日など、辺り一面に花びらが落ちているのを見掛けると、無惨という感じさえしてしまう。桜の落花は華やかな王朝が突然、落魄(らくはく)していく姿にも似ている。桜の花を見ると、そこに生の謳歌(おうか)よりも死の影を強く感じる。

 1827年のきょうは、ドイツの世界的な作曲家のベートーベンが亡くなった日でもある。忌日は「楽聖忌」と呼ばれている。ベートーベンの作った交響曲は多いが、きょうは「田園」を聴いてみたい気がする。