横綱白鵬は「強い者は大関になる。宿命の…


 横綱白鵬は「強い者は大関になる。宿命のある者が横綱になる。彼には何か足りない」と苦言を呈したことがある。初場所千秋楽結びの一番。その白鵬の怒涛(どとう)の寄りを俵に足を掛けて必死に残し、左から押しつぶすように渾身(こんしん)のすくい投げに決めた。

 稀勢の里が、立ちはだかる大きな壁を崩し、前日に決めた初優勝に加えて横綱昇進を確実にした瞬間である。「14勝は立派。あれだけの寄りをよく残した」(八角理事長=元横綱北勝海)一番を、大関は「誰かが後押ししてくれたような気がする」と話した。

 脳裏に浮かんだのは、6年前の11月に急逝した先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)の顔に違いあるまい。終盤の不戦勝、相撲に負けて勝ちを拾った一番など、運も味方に付けた今場所は明らかに足りない何かを埋めた。

 白鵬とは、前頭筆頭だった平成22(2010)年九州場所2日目に、69連勝双葉山超えを目指した連勝を63で阻む金星を挙げたが、大関になってからは厚い壁にはね返されてきた。これまで優勝次点12回。それでも腐らず誠実な努力を重ねた末に、ついに宿命をつかんだのだ。

 昨日の横綱審議委員会の推薦決議を受け、明25日の理事会で稀勢の里の横綱昇進が正式に決定する。待望の和製横綱の誕生は平成10(1998)年の若乃花以来、19年ぶり。

 まさに大器晩成、遅咲きの大輪の開花である。春場所は蹲踞(そんきょ)から立ち上がる所作が最も美しい横綱が見られる。