開場50周年を迎えた東京・千代田区の国立劇場で…


 開場50周年を迎えた東京・千代田区の国立劇場で、記念の文楽「通し狂言仮名手本忠臣蔵」が上演されている。人形浄瑠璃の名作「仮名手本忠臣蔵」は、人気の六段目「早野勘平腹切の段」など、よく上演される。しかし大序から十一段目までを「通し」で、しかも本拠地大阪でなく東京で鑑賞する機会はそうない。

 ひと月ほど前、チケット発売の電話受付開始日の昼すぎに電話をしたところ、大序から六段目までの第1部は既に全席売り切れ。驚くと同時にがっくりした。それでも七段目「祇園一力茶屋の段」から始まる第2部であればまだあるというので何とかそのチケットは入手し、先日観(み)ることができた。

 文楽人気の高まり、そして国立劇場での公演が年に5回ほどということもあり、チケットはいつもあっという間に売れてしまう。ちょうど忠臣蔵の季節ということもあるだろう。

 文楽は、劇に引き込まれていくうちに、人形が完全に生きた存在となる。今回は人間国宝・吉田簑助さんが遣う「おかる」が、やはり魅力的だった。

 九段目「山科閑居の段」は「人の心の奥深き山科の隠れ家を」の語り出しで始まる。深く「本懐」を腹に秘めた由良助を暗示したものだ。

 大きな志をうちに秘め、大国を相手に虚々実々の駆け引きを展開する。そんな芸当のできる政治家が今の日本にどれだけいるだろうか。そんなことも考えながら、人形たちが演じる国民劇に浸る一時(ひととき)だった。