去年芥川賞を受賞した又吉直樹氏は、受賞者…


 去年芥川賞を受賞した又吉直樹氏は、受賞者として極めて特異だ。受賞者は、その後作家として小説を発表するのが通例だが、又吉氏にその動きはない。ポイントは「芸人」だ。又吉氏は、芥川賞を取っても芸人を辞めない。芸人が小説を書いて芥川賞を受賞した。それだけだ。

 賞を与える側は、受賞後いい作品を発表してほしいと願っているはずだが、彼はそんな期待には応えない。「芥川賞を取った芸人」というポジションであり続けている。

 彼の在り方については、太田省一著『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)が参考になる。ここ20~30年の間に社会の目が劇変し、芸人が重視されるようになった。

 芸人は、役者、映画監督、コメンテーター、政治家など様々な分野に進出するが、芸人だけは辞めない。映画監督で失敗しても、マイナスにはならない。「あくまで芸人だから」というスタンスは、あらゆる批判を無力化する、と太田氏は指摘する。

 芸人が最強のポジションになったのは、「空気読み能力」と「コミュニケーション能力」によってだ、と太田氏は言う。今の日本社会で最も重視される二つの能力だ。

 「これ以上空気読みをしなくても?」とか、「コミュニケーション能力が過度に求められているのでは?」という疑問は尤(もっと)もだが、そうした能力が重視されるのも現実、という厄介なしがらみの中に我々は置かれているようだ。