「冤罪の防止のため、取り調べの可視化を」…


 「冤罪(えんざい)の防止のため、取り調べの可視化を」と日本弁護士連合会が訴え、2006年から運用が始まった「取り調べ録音・録画」。今年5月に成立した改正刑訴法では、裁判員裁判と検察独自捜査事件で取り調べ全過程の録音・録画が義務付けられた。

 定着したかに見える「可視化」だが、この録音・録画した映像の取り扱いに関し、不都合な問題が生じている。このほど、裁判員裁判を担当する全国の裁判官40人が意見交換した。

 最近では客観証拠が乏しい事件で、検察側が自白調書の信用性を立証するために、これらの映像について証拠請求するケースが増えている。つまり、弁護士側が目指した冤罪防止よりも証拠固めに重点を置いて映像が使われているわけだ。

 くだんの裁判官たちの間では、本来想定していなかった“利用法”について、慎重な意見が相次いだというのもうなずける。強い戸惑いさえ感じられるのだろう。

 さらに、ある裁判官からは「公判中心主義に立ち返った裁判を目指しているのに、法廷で映像を再生すれば、取り調べを再現する上映会になるのではないか」という笑うに笑えない意見も出たという。

 やんぬるかな、である。弁護士側の検察側に対する攻勢が実を結び、始められたこの可視化。録画の機械を挟み込むことで、取り調べという最も“人間くさい行為”を割り切ろうとした弁護士側の意図の安直さも指摘しておきたい。