「弟も老いて無事なり秋祭」(古橋呼狂)。…


 「弟も老いて無事なり秋祭」(古橋呼狂)。秋祭りの季節である。田舎に住んでいた時は、秋祭りは待ち遠しい楽しみのひとつであった。

 地元の神社には、金魚すくいや綿あめなどの屋台が立ち並び、冷やかして歩くだけでも胸が高鳴ったことを思い出す。秋晴れの空の下、太鼓の音も不思議なほど澄んで聞こえたものである。

 東京に住むようになってからは、秋祭りにはあまり縁がなくなった。それでも、近所の神社の祭りがある時は、都会の喧噪に混じって太鼓や笛の音が風に乗って聞こえてくる。そうすると、懐かしい故郷の祭りが目に浮かんでくる。

 太鼓の音というと、勇壮で腹に響くようなイメージがある。しかし、秋祭りの太鼓の音は軽やかでリズム感に満ちている。どこか心の奥底にふれるような音だ。リズムも短歌や俳句のそれに似ている気がする。

 秋の空の青さもまた、春のおぼろな青さとも夏の熱気に満ちた青さとも違う。よく「抜けるような」という表現を使ったりするが、純度の高い精製した色合いを思わせるものがある。心もそれを吸い込んで透明になる感じだ。

 最近の祭りはイベント化して海外のサンバチームなどを呼んで、にぎやかで派手な演出を試みたものが多くなっている。確かに、激しい踊りを見ると楽しい気分にさせられる。それでも、秋祭りのあのやわらかな雰囲気、どこか遠い太鼓や笛の音色が懐かしい。