「子燕のさゞめき誰も聞き流し」(中村汀女)…


 「子燕のさゞめき誰も聞き流し」(中村汀女)。先日、商店街を歩いていたら、目の前をツバメが飛び交っていた。

 注意して見ていたら、ドラッグストアの軒下に泥を塗り固めたような巣があった。4~5羽の雛(ひな)が黄色いクチバシを開けてピイピイ鳴いている。必死に鳴く姿は、どこか切なく心に迫るものがある。

 毎年、日本各地で見られる光景だが、そのたびになぜかホッとする。ツバメの越冬地は台湾や東南アジアが中心。そこでは子育てはしないので、日本と違って巣はあまり見られないという話もある。そう聞くと、ますますツバメに親近感がわいてくる。

 ツバメは人間にとっては身近な存在で、農家が育てている穀物を食べないで害虫だけを捕食するため益鳥として大切に扱われてきた。この季節は稲などの生育に重要な時期だが、稲の葉を害するガやウンカなどが大量に発生する。

 ツバメはこれらの昆虫を1日に数百匹食べると言われている。農家にとっては古来ありがたい鳥だったのだ。ツバメが軒先に巣を作った家は縁起がいいという言い伝えがある。それに対して、スズメは穀類を食べるので害鳥とされた。

 その意味では、益鳥とするのも害鳥とするのも人間側の主観の問題にすぎないとも言える。だが、ツバメのスマートな飛び方やタキシードを着たような姿、それに子育てに奮闘している姿を見ていると、ツバメを益鳥として考えたくなるのも分かる気がする。