首都圏を流れる多摩川は護岸されていない…


 首都圏を流れる多摩川は護岸されていないところがかなりあって、自然がけっこう豊かだ。高度成長期、下流域は生活排水による汚染で魚の棲(す)めない川となったが、近年は遡上(そじょう)するアユの数が急増している。

 まもなくこの川で、アユ釣りが解禁される。アユは石に付着した珪藻や藍藻や緑藻などを食べて大きくなり、その餌のおかげで独特の香りを放つようになる。香魚といわれるゆえんだ。

 かつて随筆家で釣り師の佐藤垢石という人物がいたが、垢石という筆名はアユ釣りと関わりがあった。垢つまり藻のついた石という意味で、各地の川でアユを調査し、垢と石についての研究を深めた。

 その結果、水源に水成岩の層を持った川のアユは品質が上等だ、という結論を出した。そこから流れ出る水は清冽(せいれつ)で、水垢も純粋。川石もなめらかで、アユが食べるのに都合がよい。

 一方、水源に火成岩の層を持った川のアユは、品質が良くないという。川の水は水成岩のように清冽でなく、水垢の質も上等とはいえず、石の面も荒くてアユの口を損ないやすいからだ。(『垢石釣り随筆』)。

 では、多摩川はどうなのだろうか。武蔵の国は水成岩で、羽村の堰(せき)から下流は地質が悪いが、水成岩の転び石がごろごろして、良質の水垢を発生させていたそうだ。そのアユは日本一といわないまでも関東一。江戸時代、江戸城に献上されていた。振り返ると夢のような川だったのだ。