今年の大学入試センター試験は、国語で…


 今年の大学入試センター試験は、国語で『源氏物語』からの出題があった。難解とされる作品だけに、受験生は戸惑っただろう。全6問中、文法問題は1問。「今でもまだ文法問題が出るのか?」とも思うが、センター試験以外では比重はもっと大きいはず。

 以前、カルチャーセンターで古典を担当した時、事務局から「文法だけは避けていただきたい」と言われた。ある国文学者の講座が文法についての説明ばかりで、主婦層が中心の受講者が激減したことがあるから、ということだった。

 文法を重視する背景にあるのは「原文主義」だ。「原文を読め」ということが昔から言われてきた。間違った考え方ではないが、日本の古典を読む場合、どうしても「文法中心主義」になってしまい、「何が言われているのか」という肝心要の部分は軽視されがちだ。

 日本語の古文はまだしも、ドストエフスキーの『罪と罰』をロシア語で読める日本人は少ない。見事なドストエフスキー論を書いた小林秀雄も例外ではない。

 その小林は「文学は翻訳で読み、音楽はレコードで聞き、絵は複製で見る。誰もかれもが、そうしてきたのだ」(『ゴッホの手紙』昭和27年)と書いた。『源氏物語』の現代語訳も多数刊行されている。

 翻訳であろうが現代語訳であろうが、まずは作品に接してみて、興味があれば原典に向かう、というのが結局は古典理解の早道なのではないだろうか。