北朝鮮、海外でも「ウリ式心得」


地球だより

 先の米朝首脳会談の開催地となったベトナムでは麺類が食卓によく並ぶ。首都ハノイを歩けば道端の簡易テーブルを囲んで腰を下ろし麺をすする住民の姿を至る所で見掛ける。記者も会談取材の合間に当地ご自慢の米粉麺「フォー」を堪能したが、最終日はさすがに飽きがきて市内の北朝鮮レストラン「平壌館」まで足を運んだ。「オボクチェンバン(牛肉寄せ鍋)」はじめ朝鮮料理を楽しめるが、本国派遣の綺麗(きれい)どころによるショーも好評だ。

 北朝鮮の歌謡曲を朗々と歌い上げ、楽器を巧みに演奏する。日本人観光客も多いとみえてショー半ばで日本語による千昌夫さんの「北国の春」が登場した。女性店員の一人が笑いながら「さっき撮影はダメだって言ったじゃないですか」と、撮ってもいない記者に愛嬌を振り舞いてくる。聞けば平壌出身の23歳でもうここに来て4年、帰国も近いという。彼女らは皆、家族を残し一人ではるばるベトナムまで来た外貨稼ぎ部隊のメンバーだ。

 「早く帰りたいでしょ」と聞くと「帰りたいです」。だが、続けて「今ハノイに最高司令官同志(金正恩氏)が来ているのをどう思う?」と尋ねると、今度は「そういうことは聞くものではありません。ここでは美味しい食事に舌鼓を打てばいいのです」とヤンワリかわされてしまった。海外に派遣される娘たちだけあって歌や踊り、楽器はもちろんトラブルの元と考える政治問答は禁物という「ウリ(北朝鮮)式心得」の方もバッチリ教育されていた。

(U)