北朝鮮の夜景


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 シンガポールの安保を守っていた英国の軍隊が撤収したのは、同国が独立を宣布した4年後の1969年だ。荷物をまとめていた英国の将校たちはシンガポールの将来を暗く展望していた。このように語った将校もいる。「これでシンガポールは終わった」。

 4年前にマレーシア連邦から強制的に分離された時も、雰囲気は暗かった。新生都市国家の初代総理のリー・クアンユー(李光耀)氏は独立宣布の記者会見で涙を流した。“これからどのようにして生きていこうか”ということを心配する涙だった。彼は後日、自叙伝で「シンガポールは正当な理由もなく、抵抗もできず、脱退を強制された」と書いている。

 歴史は反転があって面白い。今日のシンガポールはマレーシアが羨(うらや)ましく思う世界的な富国だ。地理的な利点に着眼した国際物流ハブ戦略、外国企業の誘致政策などが立派に実を結んだのだ。治安は完璧に近く、公職者の清廉度も最上級だ。2015年に他界したリー・クアンユー氏の鉄拳統治が奇跡のドラマを成し遂げたのだ。夜景も逸品だ。最近、朝米首脳会談のためにシンガポールを訪れた北朝鮮の金正恩国務委員長も高層ホテルの展望台から夜景を観賞して「整然として美しい」と感嘆したという。

 平壌の夜の街がすっかり変わったようだ。金委員長が「平壌市の夜景は強盛国家の首都らしく、見惚れるような稀有(けう)なものにすべきだ」と語ったのだという。照明の総力戦を指示したわけだ。シンガポールの記憶が反映された指示であるはずだ。

 米国の航空宇宙局が公開した“夜の地球”という写真がある。豊かな国は明るく、貧しい国は暗くなっている写真だ。当然、韓半島も南側は明るく、北側は暗い。北朝鮮の“最高尊厳”が指示したのだから、使いうる資源を総動員すれば平壌の夜を明るくすることは容易(たやす)いことかもしれない。しかし、平壌を除く他の地域はもっと暗くなるだろう。今も真っ暗なのに、もっと暗くなったらどうなるのか。

 金委員長は夜景が何を意味するのか直視しなければならない。他ならぬ国力だ。国力が取るに足らず民生が疲弊すれば、明かりを煌々と灯(とも)してもはかない火遊びにすぎない。平壌の夜景、さらに北朝鮮全域の夜景のためにも、非核化が至急であるという事実を早く悟るべきだ。その代わりに火遊びばかりすれば、「北朝鮮は終わった」という言葉がいつ出てくるか分からなくなるだろう。

(6月28日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。