危機の安哲秀


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 「権力は戦い取るものだ」。この言葉は現実感がある。虎穴に入って大統領の座(虎)を掴んだYS(金泳三元大統領)が語った言葉なので、いっそう実感がこもっている。選挙は殺伐な戦争だ。戦争で負けた将の運命は定まっている。逃げたり死んだように蟄居(ちっきょ)したり。過去には二つのうちの一つだった。DJ(金大中元大統領)はYSに負けると英国行きの飛行機に乗った。しばし身を隠したことが政権に就く踏み台となった。

 人々は勝者の配慮を期待し、寛容の必要性を語る。実際の権力を握った勝者が歴史の主人公であるためだ。しかし、敗者の態度もそれに劣らず歴史に影響を及ぼす。敗者が身の処し方を誤る場合、自分だけでなく支持してくれた全員を犠牲者にしてしまう恐れがある。少し大げさに言えば、わが国の政治史で昌(李会昌元ハンナラ党代表)がそんな場合だ。DJに敗れた昌は国内での蟄居を選択した。権力の手づるを握ったまま再挑戦に乗り出すためだった。無理な手は結局、自分に返ってくる。昌は“(トラックで受け渡しするほどの)巨額不法選挙資金”で勝負をかけたが、盧武鉉に勝てなかった。腐敗政党の烙印(らくいん)がハンナラ党に押されることになった。

 政治はタイミングの世界だ。戦うのか、さもなければ和解するのか。政治家はすべからく相手と時代の流れに従って瞬発力をもって行動できなければならない。洪準杓・自由韓国党代表は前者を選んだ。大統領選挙に敗北した後、米国行きの飛行機に乗ったが1カ月後に戻ってきてあらゆる非難を甘受して党代表選挙で勝利した。大きな選挙で負けて小さな選挙で勝っても別に利益になる商売ではない。それでも彼は「勝った者が全ての権力を振るう時代ではないので、今は野党も面白い時代」だと言った。攻撃が最善の防御だ。洪代表は悪役を自任している。国会の上空に乱気流が生まれつつある。

 国民の党が大統領選挙の際に提起した文在寅大統領の子息ジュンヨン氏の“裏口就職疑惑”の根拠となった資料が捏造(ねつぞう)されていた事件の余波が広がりつつある。スキャンダルに勝つ方法はない。真実を明らかにして毒杯も避けないという責任感が必要だ。そうであってこそ一時後退しても再び前進することができる。国民の党の大統領候補だった安哲秀氏の態度がはっきりしない。無期限蟄居の道も生き残りの一つの方式だ。しかし、歴史の教訓は明らかだ。危機管理をうまくしてこそリーダーの資格が生まれる。

(7月5日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。