秘密の言葉「ザナチカ」


地球だより

 筆者の経験上、欧米ではあまりへそくりという行為を見たことがない。5年以上の欧米生活を経た後、旧ソ連圏で生活を始めて十数年になる。ロシアでは共産主義歴史の経験から、いざという時のための貯蓄という概念が存在する。

 例えば旅慣れた私がいつも切らしてはいけないと常備する、携帯コーヒーパックやつまみセット。性格上、欲しい時に品切れするのが嫌で、欲していない時に与えられた物を、欲しい時のために取っておきたいだけなのだ。それを現地の友人たちは「ザナチカ」と言って重宝がり、いつも私の周りに何となくやって来る。

 ソ連時代にはたばこ等配給される物をへそくりのように貯蓄し、それをザナチカと呼び、非常時にそれを使っていた。皆さんがロシアを訪問した際は「ザナチカあるよ」と声を掛けるだけで、「何で、そんなわれわれの文化知ってるの?」と自然に笑いが生まれる秘密の言葉となる。特に日本人の携帯食品や100円商品は現地では非常に重宝がられ、最高のザナチカになり得る。それを分けるだけで同志(タバリッシ)扱いされる。

 ただ、この貴重な習慣もソ連時代を知らない最近の若者にはあまり見られないようだ。自分が使える物は、使えるだけ使うのが彼らの性分のようで、他の人のことを考えない行為に引いてしまうことがある。

(N)