松陰像撤去で「意趣返し」


地球だより

 山口県に出張した折、少し足を延ばして萩を訪れたことがある。ここには幕末に吉田松陰が開いた私塾・松下村塾の建物が残り、明治維新の立役者たちの生家があちこちに点在する、いわば近代日本ルーツの一つだ。山口(長州藩)は安倍晋三首相をはじめ歴代総理大臣を多く輩出した地でもあり、「日本の気」を大いに感じさせる場所だ。

 そんな歴史を知ってのことだと思うが、先日、韓国最大野党・共に民主党の新しい党首に選ばれた秋美愛(チュミエ)氏が、日韓「慰安婦」合意と関連し日本が韓国に10億円拠出して少女像を撤去せよと言うのなら、われわれも100億ウォン(約10億円)を募金して日本の精神的支柱である吉田松陰の銅像を撤去させてはどうか、と語った。これを報じた韓国メディアは秋氏が「冗談半分だった」と書いているが、案外、ズバリ本音だったのではないか。

 意趣返しとはいえ不幸な過去の被害を象徴する少女像を松陰像と同列に扱う乱暴さには驚かされるが、韓国人にとって少女像はある面、精神的支柱なのかもしれない。反日の「聖地」、「慰安婦」合意後は日本と“歴史談合”した朴槿恵政権を糾弾する「拠点」だ。

 ただ、精神的支柱の中身は全く異なる。松陰像を見た日本の修学旅行生は力強い近代日本史のうねりに思いを馳(は)せるだろうが、少女像を囲んだ反日デモに次々に動員されてくる韓国の学生たちは自国の歴史に矜持(きょうじ)を抱いているようには見えない。

(U)