正当防衛が蘇るのか


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 休学中の大学生A氏は自宅前で父親とセメント作業中だった。ちょうど通り過ぎようとした酔っ払いの30代男性がホースに足を取られて倒れそうになった。彼は父親に毒ついて言い争いになり、止めに入ったA氏の胸ぐらまでつかみ、メガネを落として壊した。結局、A氏も対抗して男性の首をつかんで絞めたてた。

 B氏は自分の特許出願作品に関心を示す人たちに会うためホテルの部屋に行った。男性3人がいたが、B氏はすぐに自分がインターネットにアップした文に抗議しようという人たちであることを察知した。彼が部屋を出ようとすると道をふさいだので喧嘩となり、B氏はある男性の腕をつかんでねじり、首筋を押した。

 周辺でよく見かける状況だ。A氏とB氏はともに“ケンカ両成敗”で立件され、検察で「起訴猶予」処分を受けた。罪は認められるが情状が酌量されて裁判にかけられなかったのだ。二人は悔しくてたまらない。不当な暴行に対抗して巻き込まれただけなので、さもありなんだ。二人は憲法裁判所に憲法訴願を出して、起訴猶予処分取消しの決定を勝ち取った。二人の行動は正当防衛に該当するとの理由からだった。

 憲法第21条は「自己または他人の法益に対する現在の不当な侵害を防衛するための行為は、相当な理由があるときには罰しない」と規定する。正当行為、緊急避難、自救行為、被害者承諾と共に、刑法に規定された違法性阻却事由の一つだ。違法性が除去(阻却)されれば犯罪自体が成立しない。民主国家では国家のみが公権力という名前で唯一、暴力使用の正当性を持つが、その例外だ。

 これまで正当防衛条項は現実の世の中でほとんど適用されなかった。捜査便宜主義のためだ。正当防衛かどうか判定しようとすれば、捜査に手間がかかる。目撃者がおらず、当事者の陳述だけしかない時には事実関係を把握するのが難しい側面もある。

 捜査機関としては事件の展開過程を詳しく突き詰めて是非を明らかにするよりも“ケンカ両成敗”の処罰が気楽だ。しかしそれで暴力の現場を見かけても、やたらに口を挟んだら酷い目に遭うという風潮が広がった。

 ペットの犬を殴った男性を止めようとして傷害を負わせた容疑で起訴された女性が一昨日、法廷で正当防衛を認められた。正当防衛は身体だけでなく財産を防御するための行為も認められるという事実が確認されたのだ。法廷で正当防衛が蘇る契機となるよう期待したい。

 (7月12日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。