北の楽団公演中止は「中国の事情」


 14日のコラムの続編となるが、どうしても読者に報告しておきたい情報がある。北朝鮮音楽楽団「モランボン楽団」の北京公演は12日、突然キャンセルされ、楽団メンバーは帰国した。楽団の公演中止についてコラムでは5つのシナリオを紹介したが、海外反体制派中国メディア「大紀元」が興味深いシナリオを掲載している。ズバリ、モランボン楽団の北京公演で習近平国家主席派と江沢民前主席派との激しい権力争いが展開され、習近平派が北の楽団公演中止を決めたという「中国の事情説」だ。

 大紀元本部の専属コラムニスト・夏小強氏は、「公演を計画・実施させようとする江沢民派と、それと反対に、北朝鮮と距離を保ちたい習近平陣営の攻防戦の結果」と主張している。
 ミサイル発射や軍事的挑発行為など、様々な騒動を起こす北朝鮮との関係について、江沢民派は「取り込み路線」を進めてきたが、習近平政権は北に対して距離を置く姿勢を取ってきた。実際、習近平国家元首は就任後もまだ北朝鮮の金正恩第1書記と1度も会っていない。その一方、韓国の朴槿恵大統領とは5回ほど会談している。習主席の対北政策はこれまでの中国外交の慣例を破るものだ。

 モランボン楽団の北京公演が報じられると、国際社会は、「冷え込んだ中朝の関係改善を狙った政治的公演」と受け取ってきた。すなわち、習政権が当然北の楽団公演を後押していると考えてきた。しかし、大紀元は、「中国共産党中央対外連絡部の公式サイトなどの発表から、今回の親善公演は10月はじめに朝鮮労働党創建70周年記念式典に出席した江沢民派の主要メンバーである劉雲山・中国共産党政治局常務委員が当時北朝鮮側と決定したと読み取れる」と指摘している。

 モランボン楽団の北京公演は江沢民派の党序列第5位の劉雲山党政治局常務委員が北側と協議し決定したものであり、習近平派は直接には関与していないことになる。コラムニスト夏氏は、「モランボン楽団の北京公演は、険悪関係となった中朝関係の正常化への政治的行動ではなく、江沢民派が習近平政権の足元を乱すための工作だった」と解釈しているのだ。
 その後の展開は、江沢民派の工作を知った習近平派が公演開始直前、リハーサルでモランボン楽団の金正恩氏崇拝一色の内容などを理由に公演中止に追いやったというわけだ。ちなみに、中国国営新華社通信は、「公演中止の理由は実務レベルのコミュニケーションで行き違いがあったからだ」とだけ報じている。

 香港の人権団体「中国人権民主化運動ニュースセンター」は13日、モランボン楽団公演中止直後、中朝国境地帯の警部部隊が通常より2000人増やされたと報じた。このニュースとモランボン楽団公演中止との関係は不明だが、大紀元の「中国内の権力闘争」が事実とすれば、自身が育てたモランボン楽団を権力闘争に利用され、公演が一方的にキャンセルされたことを知った北の金正恩氏が怒り狂い、暴発するのではないかと恐れた習近平派の警戒体制だった、ということになる。

 「大紀元」の報道が正しいとすれば、中朝関係は今後、一層険悪化する一方、中国内の権力闘争は更にエスカレートすると予想されるわけだ。

(ウィーン在住)