増長する遺族


地球だより

 韓国南西部沖で旅客船「セウォル号」が沈没し、死者・行方不明者300人以上を出した大惨事からもうすぐ1年がたつ。犠牲者の大半が修学旅 行中の高校生だったということもあり、国民が受けたショックは大きく、随分長い間、社会的同情が広がったが、いまだに違和感の残ることがある。事故後の遺族たちの言動だ。

 これほどの悲劇に見舞われたことはもちろんお気の毒であり、慰労の言葉さえ見つからない。ただ、救助が遅いと言っては担当者に詰め寄ったり、検察を信じず、自分たちを真相究明の調査に加えるよう政府に無理な要求を突き付けたりした。同じ韓国人でも「政治勢力化するのか」と感じた人が少なくなかったはずだ。

 ローマ法王が来た時は抗議の断食をしていた遺族がプラカードを高々と掲げ、法王から慰労される場面が生中継されたが、なぜこうも目立とうとするのか不思議だった。一部遺族たちが酒を飲んで周囲に「おれたちを誰か知ってるのか」と悪態をつく出来事もあった。被害者が同情され過ぎて“英雄”扱いされてはいまいか、と思わずにはいられなかった。

 そんな場面ばかり見ていたからかもしれない。昨夏、広島で起きた土砂災害で身内が行方不明になった女性が、まだ事故から何日もたっていないのに救助活動する自衛隊員に感謝の言葉を述べていた。被害者が偉ぶらない姿が「新鮮」に映った。

(U)