紙爆弾の威力


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 「義挙越北する(韓国)国軍将兵たちに。共和国国民の権利、自由を保障。国家表彰、生活保障金・賞金支払い。大学および研究院まで無料教育。職業・職場の斡旋(あっせん)、外国留学を保障。高級住宅、生活必需品の無償提供。生活保障金(南朝鮮のカネで)1億1100万ウォン~3億3300万ウォン。賞金(南朝鮮のカネで)185億ウォンまで。朝鮮民主主義人民共和国軍事委員会」

 北朝鮮軍が韓国軍の越北(自発的な北朝鮮入り)を慫慂(しょうよう)するためにまいたビラの内容だ。最高の教育と職場を保障し、高級住宅まで与えるという。さらに、最大約188億ウォンの生活保障金と賞金までも…。本当なら、ロトくじ当選以上の“人生逆転”が可能になる。ところで、条件が途方もなく破格なので、むしろ信頼できない。ひどい食糧難で北朝鮮軍の中ですら“栄失(栄養失調)軍人”が続出する状況で、帰順軍人に“カネ爆弾”を抱かせる余裕があるのか。

 孫子の兵法は「敵と戦わず意志を挫(くじ)いて屈服させるのが最善」だと言っている。心理戦の重要性を強調した言葉だ。米国の心理戦専門家、ダニエル・ラーナーは「心理戦は説得なので、信頼という条件が必要だ。長期的に事実の伝達だけが効果を生み出す」と語る。心理戦の最も普遍的な手段がビラ(韓国式発音では、ピラ)だ。

 南北の心理戦は戦闘以上に熾烈(しれつ)だ。韓国動乱当時、連合軍は660種類25億枚のビラを撒(ま)いた。フランク・ペース米陸軍長官は「敵をビラで埋めてしまえ」という命令を出したほどだった。北朝鮮も367種類3億枚のビラを撒いて対抗した。「帰順すれは寒さと空腹を免れ、故郷に帰ることができる」という内容は、双方とも大同小異。北朝鮮軍捕虜の65%がビラを見て降伏するほどビラの威力は大きかった。紙爆弾と呼ばれるのはこのためだ。

 1960年代以降は、南北の体制の優越性と批判の手段に変わった。そんなビラが近頃、南北関係の葛藤の核として登場し、ついに北朝鮮は、ビラの散布が中断されなかったとして、第2次南北高官協議を取りやめにした。核兵器を持ったと大口をたたく北朝鮮が紙爆弾に戦々恐々としているとは、哀れなことだ。北朝鮮が張り子の虎であることを自認したようにみえると言ったら、うがち過ぎだろうか。

(11月4日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。