子供に声かけは変質者?


 「栃木小1女児殺害事件」の容疑者が今年6月、事件発生から8年半を経て逮捕された。その後、岡山県倉敷市で女児監禁、千葉県松戸市で女児誘拐未遂と、幼い子供を狙った事件が相次いでいる。こんな物騒な時代だから、保護者や学校関係者が子供の安全に気を配るのは当然だとしても、時として過剰反応では、と思うこともある。

 筆者の故郷は人口8000人足らずの東北の農村地帯。各家にある有線放送からは「ただいま町を猿の親子が縦断しています」「中学校の裏に熊が出没しました」と、注意を呼び掛ける女性アナウンサーの声が度々流れている。

 実家に帰ったある日、80歳を超えた父親がこんな話をしてぼやいた。散歩をしていると、知り合いのお孫さん(小学生低学年)が下校途中だった。「おばあちゃんが待ってるから、寄り道しないで帰るんだぞ」と声を掛けたが、その児童は驚いたように駆けて去った。

 「今時の子供は年寄りとの接し方も分からないのか」と少々気分を害しながら、帰宅すると、さらに驚く事態が待っていた。一息ついていると、「子供に声をかける不審な高齢者が徘徊していますので、注意してください」と、耳慣れたアナウンサーの声が流れてきた。

 その時は「こんな田舎でも物騒になったものだ」と、冷静に受け止めた父親だった。しかし、散歩途中での出来事と放送内容が直結した瞬間、「それは俺のことか」と、それまでの冷静さは一瞬にして怒りに変わったのだった。猿や熊よりも嫌われる変質者に間違われたのだから無理もない。

 父親と出会った児童は知らない人から声を掛けられたら、逃げて家の人に知らせなさいと学校で教えられたに違いない。そして、その保護者が学校に知らせたことで、件の有線放送となったのだろう。下手に子供に声も掛けられない時代になったものだ。(清)