今時の若い者は…


 「今時の若い者は…」というのは、年老いた人間が息子や孫の世代に対して一言、物申す時の決まり文句だ。これは昔も今も変わらない。

 「現代青年の師弟関係は、全く乱れてしまって、美(うるわ)しい師弟の情誼(じょうぎ)に乏しいのは寒心の至りである。…学校の生徒の如きは、その教師を観ること、あたかも落語師か講談師かのごとく、講義が下手だとか、解釈が拙劣であるとか、生徒としてあるまじきことを口にしている。」

 戦前の“古きよき時代”を知る人物の現代教育に対する苦言だ、と言いたいところだが、実は、明治期の実業界の大立者、渋沢栄一の講演録をまとめた『論語と算盤』に出てくる一節だ。青年期を明治維新の渦中で過ごし、その後、大蔵省の官僚から実業界に転じて「論語の教訓」に基づいて日本資本主義の基を築いた渋沢は、明治期の教育現場にも強い不満を感じていたようだ。

 渋沢はまた、『古之学者為己、今之学者為人』(古(いにしえ)の学者はおのれがためになし、今の学者は人のためにす)という論語の一節を引用して、「一体現代の青年は、学問を修める目的も誤っておる」と指摘している。

 渋沢のように、酸いも甘いも噛(か)み分けて自分の生き方に確信を持つ人間にしてみれば、年少者の生き様に何かと不満を感じるのは、ある意味で当然だ。「今時の若い者は…」と言えるのは実は幸福な人なのだろう。

 と思うのは、25歳の時に亡くした父からそんな話を一切聞かなかったからだ。父は昭和4年生まれで、今でいえば高校生の時に敗戦を迎え、価値観の大転換を経験した。真面目に家業に励んで、私たち兄弟を何不自由なく育ててくれたが、ついに若い頃の話や人生訓めいたことは聞かなかった。もう父が亡くなった歳を超えたが、「今時の…」などというと娘から「今は時代が違うのよ」と一蹴されてしまう。これは…。(武)