脱北者の重婚


地球だより

 先日、知り合いの脱北者が結婚式を挙げた。お相手は二回り近く年下の美人で、こちらも同じ脱北者。新郎はスラッと背が高く、インテリ風情であるためか、あまり「過去」を感じさせない似合いのカップルという印象を与えていた。

 韓国では脱北者同士の結婚、それも再婚が少なくないが、その際常に付きまとうのが重婚問題だ。知り合いの彼の場合、北に残る妻がいつ韓国に来られるか分からないという事情を韓国の家裁が情状酌量してくれ、奥さんの名前を戸籍から外してもらった。一方、北でも、彼は行方不明者扱いにされ、「時効」で奥さんとの婚姻が自然消滅したそうだ。南の法律にも北の法律にも引っ掛からず、めでたく“潔白な身”となったのである。

 だが、大半のケースは今なお北に残る夫や妻との婚姻が解消されないまま、見切り発車的に南で再婚するという。「南北の特殊関係」を考慮すれば韓国での結婚は「当然の権利」とも言えるが、手厳しい言い方をすれば重婚状態でもある。もっともこれくらいはまだ序の口で、韓国にたどり着くまでに何年もかかった人は、潜伏先の中国などで再婚していることもあり、こうなると三重婚になる。

 ともあれ韓国では、「死線」を越えてきた人の多い脱北者たちの結婚は祝福されるべきだとする世論が強い。ご本人たちも「残してきた妻を思うと後ろ髪引かれる思いが…」といったセンチな気分に浸ることはあまりなく、むしろ堂々としている。倫理観や伝統意識が薄れゆく韓国社会が、脱北者たちの新たな門出を後押ししているというのも皮肉な話というべきか…。

(U)