企業景気、保護主義に警戒感強まる


 米中の貿易摩擦を背景に産業界に警戒感が強まっている――日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業のそんな経営心理を示す結果となった。

 円高による輸出企業の収益悪化も懸念され、景気の先行きには慎重な見方が広がる。景況改善の流れが止まり、踊り場に入りつつある懸念も出てきた。

景況感悪化示す日銀短観

 大企業製造業の景況感悪化は2016年3月調査以来8期、2年ぶりである。今回調査の回答期間は2月26日から3月30日までであり、鉄鋼やアルミニウムの輸入制限措置を発動(3月23日)した米国の保護主義的政策に対する懸念も、かなりの程度影響したとみていいだろう。

 現状の景況感ばかりなく、3カ月後の見通しも、円高の進行も加わって悪化している。見通し悪化は、製造業だけでなく、非製造業を含む幅広い業種に及んでいる。

 今回の短観によると、大企業製造業の18年度想定為替レートは1㌦=109円66銭と前年度より約1円の円高になり、大企業全産業の18年度の設備投資計画も前年度比2・3%増と低調である。18年3月期決算では好調だった収益も、大企業の18年度経常利益計画では製造業、非製造業とも減益見通しになっている。最近の急激な円高や米国の保護主義的な通商政策が、企業経営者の心理的重しになっている状況がうかがえる。

 人手不足も相変わらずというより、より深刻になっている。大企業の雇用人員判断指数(DI=「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業を引いた割合)は、製造業でマイナス18、非製造業ではマイナス28となり、いずれも人手不足が拡大。大企業全産業の人手不足感は26年ぶりの高水準になっているのである。

 円高・ドル安の進行については限定的とする見方もあるが、米国の輸入制限発動に対し、計128品目の報復関税に踏み切った中国の今後の動向によっては波乱も予想され、先の見通せない状況が続きそうである。

 企業が賃上げや設備投資に積極的に動きにくいのは、現状ではやむを得ないが、デフレ脱却へ経済の好循環形成を目指す安倍晋三政権にとってはマイナス材料である。

 その他の経済指標を見ても、景況が悪化していることが分かる。鉱工業生産は1~3月期に8四半期ぶりに前期比でマイナスに転じる見込みであるなど、景気は踊り場に入りつつある状況のようである。

地道に成長力強化を

 現在の景気は高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて、戦後2番目の長さに達しているとされるが、力強さは相変わらず見られない。景気の「山」が高くない分、「谷」も深くなく、長く続いているとも言えるが、回復の実感が乏しいまま踊り場へとなれば、予定通りに19年10月に消費税増税(税率10%への引き上げ)が実施された場合、日本経済のダメージはより深刻なものになってこよう。

 現状、政府・日銀にできることは限られているが、状況を注視し成長力強化に地道に取り組むべきである。