日銀短観、依然強い先行きへの警戒感


 日銀が発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、海外経済の回復などを要因に大企業、中小企業とも製造業、非製造業を問わず景況感の改善が進んだ。

 ただ先行きについては、トランプ米大統領の政策運営などの不透明感が強く、いずれも悪化を予想するなど慎重だ。政府の適切な対応が必要である。

 景況感改善は進んだが

 景況感の改善は大企業製造業で3期連続、非製造業でも2期連続である。中小企業でも製造業、非製造業を問わず改善し、幅広い業種で企業心理が上向いていることを示した。

 要因は海外経済の回復と2020年東京五輪・パラリンピック関連の需要である。素材市況や業務用機械、電気機械などの輸出関連が堅調だったほか、五輪関連で窯業・土石製品といった業種が中心となり景況感を押し上げた。

 これに伴い、17年度の設備投資計画が大企業全産業で、前回3月調査の前年度比0・6%増から今回は同8・0%増と大幅に伸びていることは心強い。着実な実施を期待したい。

 とはいえ心配なのは、やはり全ての企業が先行き悪化を見込み、依然として慎重で警戒姿勢を崩していない点である。

 3カ月後の業況を予測した先行きDI(「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値)は、大企業製造業が2ポイント、大企業非製造業は5ポイント悪化。中小企業でも製造業、非製造業でそれぞれ1ポイント、5ポイントの悪化となった。

 原因は、トランプ大統領が打ち出す通商政策や税制などの行方がはっきりしないこと。さらには、東アジアや中東の地政学的リスクなど、海外情勢の不透明感が重しになっていることである。

 先行きに対する警戒感が強まれば、旺盛とも言える設備投資計画も絵に描いた餅になる可能性がある。

 こうした不安定な海外要因も、国内景気が盤石であれば影響は小さくて済むが、そうではないというところが最近の日本経済の課題である。

 内需に景気を支える勢いがなく、外需すなわち海外要因に左右される状況となっている、端的に言えば、国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費の弱さである。

 今回の短観では、小売りや対個人サービスといった消費関連が足元で改善していることが示された。しかし、その伸びはいま一歩というのが現場の実感で、回復を感じられるほどの力強さは依然としてない。

 人手不足への対策が急務

 内需の弱さには、人口の減少とりわけ15歳以上65歳未満の生産年齢人口縮小の影響もあろう。経済の成熟化も然(しか)りである。しかし、こうしたマクロ的な側面以上に、直接的な影響を及ぼすものとして、賃金を含む労働環境が挙げられる。

 その改善の余地は小さくない。長時間労働是正などの「働き方改革」の着実な実行が求められる所以(ゆえん)である。労働現場ではパートタイマーの雇用が難しくなるなど、人手不足が景況感改善の足かせになり始めている。対策が急務である。