医療費抑制、「健康寿命」を延ばしたい


 保険診療に支払われる国民医療費が2023年度に51兆円を超えるという。現状のままでは医療制度の崩壊だけでなく、国家財政の破綻を招きかねない非常事態である。

 政府には、世界に誇れる国民皆保険制度を維持するため、医療体制の効率化やコスト削減に知恵を絞ってほしい。一方、われわれ国民の側にもできることがある。暴飲暴食を慎みバランスの取れた食生活と適度な運動を心掛けるなど、医療に頼らずに済む努力である。

 23年度は51兆円超に

 14年度の国民医療費は40・8兆円で、8年連続で過去最高を記録した。政府の有識者調査会の推計によると、23年度には、これがさらに10兆円伸びて、51・2兆円に達する。背景にあるのは、高齢化の進展と医療技術の高度化だ。

 厚生労働省の調査では、国民1人当たりの医療費は32万7000円だが、後期高齢者(75歳以上)になると、94万8000円に跳ね上がる。高齢になれば、医者の世話になる回数が増えるのは避け難いことだ。

 高額な新薬剤の登場も医療費の肥大化に拍車を掛けている。年間数千万円のがんの薬もあるが、患者の自己負担額には上限がある。しかも高齢者にはその上限が低く設定されている。

 これでは、医療費は際限なく肥大化する。かといって、医療技術の進歩を止めるわけにはいかないし、高齢化の進展はまだまだ続く。

 このため、人口の多い「団塊の世代」がすべて後期高齢者になる25年には、医療費は54兆円に膨れ上がるとの試算もある。このままでは、国の財政が逼迫(ひっぱく)し、国民皆保険制度が維持できなくなるのは時間の問題だ。

 そこで、政府は今、医療体制の効率化、価格の安い後発医薬品(ジェネリック)の利用拡大、高齢者医療の優遇見直しなどの検討を行っている。無駄をなくす努力はぜひ進めるべきだが、医療の質を保ちながらのコスト削減はそう簡単ではない。

 一方で、国民の側にも課題がある。安い費用で医療サービスを受けられることで、医者や薬剤に頼ることを安易に考え、健康維持の努力を怠ってはいないだろうか。

 日常生活の中で、暴飲暴食を控え、また適度な運動を続ければ「健康寿命」を延ばすことができるだろう。

 健康寿命とは、世界保健機関(WHO)が00年に提唱したもので、「健康な状態で生きられる寿命」をいう。医療技術の進歩や生活環境の改善で、どの先進国でも寿命が延びている。

 中でも日本人は、平均寿命が男性約81歳、女性87歳と長寿を誇る。しかし、運動機能の衰えなどで日常生活に支障を来す人も増え、健康寿命は寿命より男性で約9年、女性で13年も短いと言われている。

 一人一人が地道な努力を

 この差が大きければ大きいほど、医療費は増大するのである。健康に良いとされる和食中心に食生活を変え、歩ける距離で車を使わないなどは、元気であれば誰でもできることだ。そうした一人一人の地道な努力が医療費の削減につながることを忘れないでほしい。