春闘ベア回答、政治主導で好循環の軌道に


 春闘の集中回答で自動車や電機など製造大手の多くが給与のベースアップ(ベア)を決定し、賃上げの流れが加速した。4月の消費税率引き上げ前の賃金改善の動きによって個人消費が維持され、さらに拡大していく景気の好循環に結び付けたい。

 首相が賃上げを要請

 安倍政権が発足して1年余りが経(た)ち、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」による円安株高を背景に業績回復した企業が、相次いで高水準のベア回答を行った。

 首相自らが経営側に賃上げを要請するメッセージを発し続けるなど、春闘としては異例の“政治主導”とも言える展開となった。政府は昨年、経済界、労働界の代表と意見交換する会議を重ね、デフレ脱却に向けて「企業収益の拡大を賃金上昇につなげていく」との合意文書を取りまとめた。これを受け、1%以上のベアを要求した連合に対し経団連は6年ぶりにベア容認の方針を発表し、首相の要請に応えていた。

 ただし、政府が賃上げを呼び掛けても業績の見通しが立たなければ企業側は踏み切れない。固定費を増やすベアに応じるか否かは、企業のアベノミクスへの期待度を示す判断とも言え、その意味でも近年になく注目される春闘となった。

 この点、自動車、電機の大手メーカーが相次いでベア回答したことは、アベノミクスの成果が呼び水となったものとして評価できよう。

 自動車業界では日産が満額回答の3500円、トヨタが2000年代以降で最高となる2700円、ホンダも2000円台に乗った。一方、4月の消費増税に来年の軽自動車税増税が加わるため、軽自動車大手のスズキ、ダイハツなどはベアを見送り、明暗が分かれた。電機業界は、日立やパナソニックなど大手10社が2000円のベアを統一回答した。

 バブル崩壊後、平成不況に見舞われた日本経済は、1997年の消費増税でデフレが本格化した。さらに2008年秋の世界金融危機によって景気が悪化し、これに11年の東日本大震災や原発事故による原発稼働停止などが追い打ちをかけた。

 この期間は低調な春闘が続いてきた。今回これに風穴を開けたのが、政治の主導力であったことは確かだ。

 が、アベノミクスも第1の矢の金融緩和、第2の矢の財政出動という政策的な展開から、第3の矢の成長戦略を民間主導の自律的な経済成長につなげる段階に達している。消費増税がマイナスの影響を与えるとしても、賃上げによる所得増加で個人消費を刺激していかなければならない。

 また、日本の企業従業者数の7割を占める中小企業に賃上げの流れがどこまで波及効果をもたらすかは予断を許さない。さらに、ベアの恩恵を受ける正社員の割合が減り、非正規社員が増加する傾向が続いているほか、連合傘下労組に加入していない非組合員もいる。

 実効性ある成長戦略を

 賃上げの流れを確実にするためには、非正規社員の雇用条件改善を後押しできる実効性ある成長戦略が不可欠だ。

(3月13日付社説)