はじめに今の日本には、沖縄の現実とかけ離れた「虚像」が独り歩きしている。沖縄県民は頻発する米兵の犯罪や基地の重圧に苦しみ、広大な基地は経済の発展を阻害している――。これが多くの日本国民が持っている沖縄像ではないだろうか。 だが、「犯罪集団」のように報じられる米兵の犯罪率は、沖縄県民のそれに比べてはるかに低く、大半の兵士は善良な市民として生活している。そればかりか、米軍は基地周辺の学校に英語教師ボランティアを派遣するなど地域への奉仕に努めている。一般市民に開放された基地内のイベントで、県民と米兵が親しく交流する光景は珍しいものではない。 経済面でも、米軍基地は発展を阻害するどころか、産業の乏しい沖縄経済を支えているのが実情だ。地主に支払われる軍用地料や基地従業員の給与など、基地は多額の収入と雇用の機会をもたらしている。毎年、基地への就職希望者が殺到するため、「基地従業員になるのは宝くじに当たるより難しい」とまでいわれている。 もちろん、基地には負の側面もある。飛行場周辺の住民は騒音に悩まされ、基地が都市計画の妨げになっていることは事実だ。日米両政府には、こうした県民の負担を軽減する努力が求められる。 しかし、イデオロギーや感情論で、基地撤去を訴えるだけでは沖縄の利益にならないのもまた事実である。冷静な視点で沖縄の現実を見据える必要があるのではないだろうか。 近年、歴代の内閣は、米軍普天間(ふてんま)飛行場の移設問題をはじめ、基地問題の解決に力を注いできたが、思うような成果を上げることができないでいる。その最大の要因は、今述べたように沖縄の実相が正しく理解されていないところにある。左翼的なメディアが反基地勢力の声ばかりを取り上げ、県民は基地の重圧に苦しみ続けているという「虚像」を作り上げた結果である。 これにより、沖縄は基地を押し付けられた「犠牲者」、日本政府はそれを強要する「加害者」という安易な構図ができ、基地の役割を客観的に論じることさえタブーとする風潮が定着してしまった。沖縄問題が混迷する原点はまさにここにある。 沖縄の米軍基地は日本のみならずアジア太平洋地域の平和と安定に欠かせない役割を果たしている。「9・11テロ事件」以降は特に、アフガニスタンへの軍事作戦の後方拠点になっているほか、フィリピンのイスラム過激派アブ・サヤフ掃討のために沖縄から約千人の兵士が派遣されるなど、テロ抑止の側面でも在沖米軍基地の意味は大きくなっている。 だが、中国が軍事力を急速に拡張する中、これ以上沖縄の米軍基地をめぐって「不毛な議論」が続けば、沖縄にとっても本土にとっても「確たる安全保障」を望むことはできない。万が一、反基地勢力が主張するように米軍が沖縄から撤退すれば、台湾海峡に近い沖縄は真っ先に脅威を受けることになるだろう。 本土復帰30周年を迎えた今こそ、偏向メディアが流布した「虚像」を排し、沖縄の現実を正しく把握する必要がある。これが沖縄問題解決の糸口であり、本書を出版する目的である。本書が沖縄問題のタブーなき議論のきっかけになれば、この上ない喜びである。
平成14年7月吉日
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