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「新しい道徳教育」への提言 まえがき
世界平和教授アカデミー代表理事 日本全体が終戦直後に自信を喪失し、それまでの価値観がすべてゆらぎ、確かなものがなくなってしまった。世の中には自由放任の雰囲気がただよい、それが親から子へ、子から孫へと連鎖している。また反権威主義の風潮や既成のものの破壊を善しとする思想が蔓延(まんえん)した。その典型が、全共闘運動であった。 最近では学級崩壊、学校崩壊が起きて、かなり学校が荒れている。どうして以前は荒れていなかったのに、いまは荒れるのか。勉強が難しすぎるから、もっと誰でも分かるようにやさしくすべきだという対処の仕方が果たして正しいだろうか。いまや、教師の力量(学力、指導力)が低下しているのに、そのような要求は到底無理であろう。 教育荒廃の最大原因は、戦後の自由放任の雰囲気や家族関係の希薄化によって秩序感覚が崩されたことである。人間社会には秩序が必要であり、一定のルールがなくては人間は生きていけない。勿論、時代とともに必要でなくなるルールも出てくる。しかし問題は、どのルールが必要か必要でないかということではない。秩序に関する感覚は、ルール感覚ともいうが、人間社会を形成していく上で非常に大切なのである。教育には家庭教育、学校教育、社会教育といろいろあるが、幼児期から秩序感覚を植えつけ、学校でも、地域社会でもその育成に努めなければならない。このような努力がモラル(倫理・道徳)の確立にとって極めて重要である。 極度の個人主義、本能的衝動による行動、刹那的な喜びの追求など、表現に程度の差はあるものの、いまではすべての先進国を蝕(むしば)む現代病の現れであると指摘されている。こうした影響はそれぞれの国の文化的防御手段をもってしても、すべて食い止められるわけではないことが明らかである。 1990年代の技術革命の進展は、経済のグローバリゼーション(地球化)を必然的なものとし、市場は驚くべき速度で変貌している。だからといって、国民国家の存在や国民国家の社会価値が損なわれていくわけでもない。それぞれの国家はそれぞれの独自の形で経済のグローバリズムに対処していこうとしている。国と市場のあいだのバランスが、国際システムの安定にとって重要であり、国はどんな政策をとってもよいかもしれないが、基本的には市場のルールによって縛られることになるはずである。 グローバリゼーションは、社会の団結力を弱める作用をもつ。それは固有の文化や宗教的価値を弱めるだけでなく、勝者がすべてを手にする社会を生み出し、これまで経験したことのない不平等な社会を作り出すことを放置してしまうからである。モラルの問題は、21世紀に向かっても、ますます大切になっていくに違いない。 ところで、現在わが国では、モラルの喪失が各界各層、国民全体に及んでいる。わが国の今日の最大の危機は、そこにあるといっても過言ではない。世界平和教授アカデミーでは、21世紀に向かうわが国において、どのようにしてモラルの教育を回復していくか、とりわけ学校教育においてどうすべきか、その研究を重ねてきた。 本書は、主として研究会で発表されたものをベースに、発表者に加筆していただき、それを整理したものである。第4章は、研究会での議論を踏まえて、本会としてまとめた現段階における「提言」である。本書が、混迷を深めるわが国において、モラルの教育を確立していく上での一助となれば誠に幸いである。 全体を通して、執筆者の一人である上寺久雄先生(元兵庫教育大学学長)に監修していただいた。改めてお礼を申し上げたい。また、研究会に携わり協力して下さった方々、並びに研究の成果をこのような形にまとめる上で努力した世界平和教授アカデミー事務局のメンバーにも感謝する次第である。 1999(平成11)年12月
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